質的研究、質的データ分析とは
「質的研究」をご存じでしょうか。
さまざまな定義がされていますが、おおまかにいえば言葉や行動のような数値化しにくい質的なデータを用い研究上の問を探究していくものです。「××とは何か」「××な方々の体験はどのようなものか」「××について人々はどう考えているのか」などの問を持つ場合に多く用いられ、よく知られた研究手法としては、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)、内容分析、事例分析、エスノグラフィーや談話分析などが挙げられます。
Google Scholarで「質的研究」「定性的研究」「Qualitative Research」「Qualitative Study」など検索してみるだけでも、多くの研究者が質的なアプローチで研究に取り組み、成果を発表していることにお気づきになることと思います。
こうした質的なアプローチと量的なアプローチ、これらは対立するものではなく、互いに補いあうものとすることで、より深い理解、よりよい解決策、より高い価値をもたらしていくものと捉えられています。
例えば「人生が変わるような学びの経験」といった人によって異なり、ばらつきのある体験を明らかにしたい場合、そうした体験をした人々の語りを質的アプローチで分析していきます。このような探求を通じ要素を抽出したり類型化したりした研究結果は、尺度開発や量的な調査の前段階の研究として役立てられることがあります。
また逆に、量的調査により明らかにされた事柄を確かめたり、異なる視点から見直したりするために質的研究が用いられることがあります。量的研究で得られた結果が確かかどうかを丹念に調べ結果の妥当性を高めたり、量的な結果からは見落とされてしまう側面に着目したりすることもできます。
最近では量的データと質的データの両方を収集し統合して取り組むことで、よりよい成果を求める「混合研究法」が注目を集めています。このように、「量」と「質」は対立するものではなく、互いに補い合うものとすることでより深い理解、よりよい解決策、より高い価値をもたらすものなのです。
「数えられるものがすべて重要なわけではなく、重要なものがすべて数えられるとは限らない」*
それでは、学術以外の世界ではどうでしょう。
「自分は分析などしていない」という方が時折いらっしゃいますが、ご自分が日々行っていることを考えてみてください。ネットでニュースをチェックし、関心のある#のツイートを検索して読み込み、出版されている書籍やマーケットレポートからクリップし。そうした情報が日々の意思決定を支えているのではないでしょうか。また、これらの情報を元にレポートやプレゼンテーションにまとめ上げることも多いと思います。
「分析」とは、複雑な現象や対象を単純な要素にいったん分解し、全体の構成の究明に役立てることです。統計的な計算はしていないかもしれませんが、私たちは日々さまざまな形式のデータを整理し、分析し、価値ある知見を得たり意思決定に役立てたり、まさに質的なデータ分析を行っているのです。
企業の中において、例えば商品企画部署では、消費者のインタビューやフォーカスグループから新製品に望まれている要素を抽出しています。もしくは優秀な人材により貢献してもらうため、従業員アンケートの集計だけでは見えづらい、働く上での課題を明らかにしようと自由回答の記述や面談内容を子細に読み込んでいる人事部もあることでしょう。医療や看護、福祉の現場において、患者やその家族がかかえる悩みや行動上の課題などを明らかにしようとしているかもしれませんし、地方自治体で住民の定着を図る施策のヒントを住民の声から探しているかもしれません。
質的な分析は、こうしたさまざまな局面に貢献できる可能性があり、それを支えるテクノロジーとノウハウは、学術の世界にとどまらず、広く活用され始めています。
*: アインシュタインの言葉と引用されやすいそうですが、実際には社会学者のウィリアム・ブルースが、著書であるInformal Sociology: A Casual Introduction to Sociological Thinking の中で書いたのが初出とのこと
おかげさまで5周年をむかえました(2024年6月3日)
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