メモとコメント、パラフレーズとサマリー: どちらの機能を、いつ、何のために使うのか?

MAXQDA Research Blog 翻訳版

Post by Dr. Stefan Rädiker (Tuesday, April 14, 2020)

「[メモ]と[コメント]は一体何が違うのか?」MAXQDAユーザー、特にMAXQDAを使い始めたばかりの方は、よくこの質問をされます。なぜなら、どちらも結局のところ考えやおぼえ書きを記録するための機能で、使い方が異なるだけだからです。[パラフレーズ]と[サマリー]についても同じことが言えます。どちらの機能もコンテンツを要約するために使用できますが、用途や必要性が全く異なります。そのため、同じ質問をしたくなるでしょう。「どちらの機能を、いつ、何のために使うのか?」

この記事は、メモ、コメント、パラフレーズ、サマリーの4つの機能を紹介し、どのような時にどの機能が適しているかをよりよく理解していただくことを目的としています。しかし、ここで紹介する情報は、これらの機能をこう使わねばならないという絶対的な決まり事ではなく、長年の研究活動やプロジェクトサポートの中で生まれた使用方法の提案です。

※ 機能名のリンクをクリックすると、MAXQDAオンラインマニュアル(英語)の該当ページが新しいタブで開きます

はじめに: 各機能の概要

まず、各機能の詳細を説明する前に、簡単な概要を説明します。

[メモ]は、重要な分析上の考えや、データに関する(初期の)仮定や仮説、分析中に生じた疑問などを書き留めるために使用します。また、サンプリングやリサーチクエスチョンのアイデアなど、プロジェクトやその進捗状況に関する記録やおぼえ書きにも適しています。メモは非常に柔軟性があり、プロジェクトの複数の要素(文書、コード、テキストの一部など)に添付することができ、さまざまな目的で使用できます。


[(コーディング)コメント]では、コード付きセグメントに注釈を付けることができます。メモとは異なり、コメントはデータがコーディングされた後にしか作成できません。コメントの重要な役割は、「矛盾した記述」や「不確実性 – チームで議論」など、コードの割り当てに関するメタ情報を記録することです。また、コメントはカテゴリーベースのアプローチにも適しており、コード化されたセグメントの重要な内容をキーワード形式で把握することができるため、いつでもカテゴリーの内容を素早く把握できます。


[パラフレーズ]は、テキストや画像を自分の言葉で要約したものです。パラフレーズは、コーディングを使わず、主に解釈学的、言語社会学的な手法を用いた分析アプローチに特に適しています。パラフレーズは、市場調査、マーケティング、ジャーナリストにとっても、インタビューやフォーカスグループでの最も重要な発言を体系的に要約するためのツールとなり得ます。カテゴリーベースのアプローチの枠組みの中で、パラフレーズは、特に、データに慣れ親しみ、データ・ドリブンのカテゴリー構築に適しています。


[(テーマ)サマリー]は、ケースのコード付きセグメント(例えば、ある人が特定のトピックについて言及したすべての発言)を凝縮した形でまとめるために使用します。これにより、研究者の視点から、トピックごとのコード付きセグメントの内容をまとめることが可能になります。つまり、サマリーは、研究参加者の日常言語で語られた内容の単なる要約ではなく、研究者の言語で経験に基づいて書かれた要約なのです。したがって、サマリーを書くためには、まずデータをコーディングする必要があります。さらに分析して発表するためには、サマリーを表にまとめる必要があります。

メモ

メモは、MAXQDA のインターフェイス上では、小さな黄色いポスト・イット® のようなシンボルで表されます。

MAXQDAインターフェイス中のメモ

メモは、MAXQDA プロジェクトの中のさまざまな場所に添付することができ、 目的に応じて使用することができます。そのため、以下のようにメモを種類ごとに区別して使用できます。

  • 文書メモ]は、文書システムの中のある文書に割り当てられ ます。例えば、ケースサマリーやインタビューの進行に関する記録などに適しています。
  • 文書内のメモ]や[メディア内のメモ]は、データの該当する箇所に貼り付けられます。例えば、言語使用の注目すべき点や、理論展開のアイデア、ケースの矛盾点などを記録するのに適しています。
  • コードメモ]は、カテゴリーに関連する考察や定義などを記録することができます。

また、MAXQDAの特定の場所に添付されない独立した[フリーメモ]も使用できます。これは、データ全体やプロジェクト全体に関連した一般的なメモ、つながりについての仮定、 分析のアイデアなどの記録に適しています。重要な分析結果も、フリーメモにしっかりと記録することができます。

メモの種類に関わらず、編集には以下のウインドウを使います

メモエディタ―

メモのテキストは、太字や斜体などのフォーマットが可能で、長さにも制限がありません。画像をメモにコピーしたり、表を作成したり、内部リンクで他のメモにリンクしたりすることもできます。例えば、分析的・理論的な内容のメモには、「理論(Theory)」を表すTマークを付けることができます。

メニュータブの[メモ]では、プロジェクト内のすべてのメモにアクセスでき、ここからすべてのメモを検索することもできます。

(コーディング)コメント

コード付きセグメントに短いコメントを書くことができます。メモとは違いコメントの長さには制限があり、最大255文字(約2~3文に相当)です。

コメントは分析プロセスの中で様々な役割を果たすことができ、コードの割り当てやコード付きセグメントを参照します(Kuckartz & Rädiker, 2019, p.75参照)。

  • コード化された内容の要点で記録することができるので、コード付きセグメントを扱うたびにセグメント全体を読む必要がなく非常に便利です。
  • コメントには、「矛盾した記述」、「この点がここで初めて現れた」、「『私』から『一人』または『あなた』への変更」、「人種差別的な表現」など、コンテンツに関するメタ情報を含めることができます。
  • コメントには、「不確かなコードの割り当て、後でもう一度確認してください」など、重要な注意事項を記載することもできます。
  • コメントはチーム内でコード付きセグメントについてコミュニケーションをとるのにも適しています。例えば、「コードXはここにあったほうがいい」などです。

コメントは、同名の列にある[コード付きセグメントの概要]で簡単に作成、確認することができます。概要は、コードをダブルクリックすると表示されます。

コード付きセグメントの概要でコメントを入力

コード付きセグメントの内容がコメントとしてまとめられている場合、簡潔な要約によってカテゴリーの内容が一目瞭然となるため、コードをサブコードに区別するための根拠としても非常に有効です。

文書ブラウザでは、コメントをドキュメントの右側にある「サイドバー」と呼ばれる部分に表示できます。コーディングにコメントが付いているかどうかは、コーディングストライプの円で確認できます。

文書ブラウザでコーディングコメントを表示: カーソルと合わせて表示(左)と、サイドバーに青枠で表示(右)

パラフレーズ

[パラフレーズ]とは、コミュニケーションスキルのセミナーなどで聞いたことがあるかもしれませんが、他人の発言を自分の言葉で要約することです。これをMAXQDAに当てはめると、文章を言い換えて、その文章の核となる部分を自分の言葉で要約するということになります。

[パラフレーズ]はコーディングを伴わない分析方法において重要なツールです。例えば、社会科学や教育科学では、解釈学的アプローチや深層解釈学的アプローチだけでなく、言語社会学的アプローチも含まれます。また、言い換えという手法は、市場調査やマーケティング、ジャーナリズム、あるいは市民調査の文脈では、例えばインタビューやフォーカスグループの最も重要な発言を体系的にまとめるための興味深いツールとなります。ちなみに、MAXQDA International Conference 2020では、Antoni Casasempere-Satorres氏とMaria Vercher-Ferrándiz氏が、言い換えを体系的な文献作業の最初のステップとして使うという興味深いポスターを発表しています。ポスターのPDF版はこちらからご覧いただけます。

質的内容分析(Kuckartz, 2014; Mayring, 2015; Schreier, 2012)のようなコードベースのアプローチでは、分析の最初にパラフレーズが使用される場合もあります。これらは、特に初心者が、データに体系的に慣れ親しみ、その内容をセクションごとに体系的に要約するのに役立ちます。コメントとは異なり、コーディングを必要としません。逆に、パラフレーズは、データをコーディングする前に作成するのが一般的です。

MAXQDA 2020 では、画像セグメントとテキストセグメントの両方にパラフレーズを使うことができます。パラフレーズは、文書ブラウザの右側にあるサイドバーに表示され、オレンジ色の枠がついています。

文書ブラウザのサイドバーで元のテキストの隣にパラフレーズを表示

Tip: 本文の横にパラフレーズを表示するだけでなく、サイドバーにメモを同時に表示することもできます。また、メモとコメントを同時に表示することもできます。ただし、メモ、コメント、パラフレーズを同時に表示することはできません。


パラフレーズを作成するには、メニューの「分析」→「パラフレーズ」でパラフレーズモードを有効にする必要があります。パラフレーズの長さも制限されており、最大255文字(通常は2~3文に相当)までとなっています。1つのセグメントに複数のパラフレーズをつけることはできません。

いくつかのパラフレーズを作成したら、[パラフレーズをカテゴライズする]機能でカテゴリーベースの分析技術を用い、インタラクティブなウィンドウでさらにカテゴリーに分類することができます。

パラフレーズをカテゴライズする対話的なウインドウ

(テーマ)サマリー

ワークショップやコンサルテーションでは「すべてコーディングした後、何をしたらよいですか?」とよくきかれます。 MAXQDA には、コードを使ってさらに作業を進めるために用意されている多くの機能がありますが、その 1 つが「サマリーグリッド」と「サマリーテーブル」からなるサマリー機能です。サマリーでは、ケース内のすべてのコード付きセグメントをトピックごとにまとめ ることができます。パラフレーズとは異なり、このプロセスでは通常、コンテンツを集約するだけでなく、研究者の分析言語を使用します。

データがコード化されると、ケースのすべてのコード付きセグメントを、コードごとに、つまりトピックごとに[サマリーグリッド]にまとめることができます。サマリーグリッドは、メニューの[分析]タブから利用できます。例えば、次の図では、「Significantly positive」というトピックに関するすべてのコード付きセグメントが回答者のJonについてまとめられており、それらの発言をコンパクトに集約したサマリーが右側に作成されています。

サマリーグリッドで要約を作成

パラフレーズやコード付きセグメントのコメントとは異なり、サマリーの長さに制限はありません。要約したセグメントの数や大きさ、含まれる分析内容に応じて、要約もかなりの長さになります。ただし、サマリーは簡潔で明確な形で書く必要があります。つまり、回答者の元の発言よりも長い文章を書くべきではありません。

選択したトピックのサマリーをケースごとに作成したら、サマリーの表にまとめることができます。オプションとして、ケースごとの変数値も同時にサマリーテーブルに統合することができます。これは、混合研究法によるアプローチだけでなく、複雑なケースのサマリーにも特に有効です。

左端の列内と独立した列に変数を表示したサマリー表

サマリー表は、コーディング後の分析ツールとして非常に有用であり、ケース指向、テーマ指向いずれのアプローチもサポートします。この表は、ケースの比較を可能にし、タイプ別に分類するための基礎となります。

コードベースの分析プロセスで、いつどの機能を使うか?

(コーディング)コメントと(テーマ)サマリーは、データのコーディングを前提としているため、コードベースのアプローチにおいてのみ使用されます。メモとパラフレーズは非コーディングベースのアプローチでも使用することができます。

コードベースのアプローチでは、メモ、コメント、パラフレーズ、サマリーは、分析の中で互いに独立して使用することができ、結局のところ、これらは異なる役割をを果たします。もちろん、1つのプロジェクトでこれらの機能をすべて使うとは限りません。メモはほとんどのプロジェクトで使われますが、コメント、パラフレーズ、サマリーはすべてのプロジェクトで使われるわけではありません。コードベースの解析プロセスのフェーズに応じて、重要となる機能が異なります。

  • メモはプロジェクト全体を通して、作成、更新していきます。
  • (コーディング)コメントは、コーディングフェイズと、コーディング後に使用します
  • パラフレーズは、必要に応じて分析プロセスの最初に使用します
  • サマリーは、コーディングフェーズの後に、テーマ別サマリーを作成するために使用できます(そして、サマリー表でケースごとにテーマを要約する基礎となります)。

結論: 比較表

以下の表では各機能の比較をまとめています。

メモコメントパラフレーズサマリー
主な用途データに関する前提・仮説、参考文献、プロジェクトに関するメモ、分析結果と結論メタ情報、キーワード、特定のコード割り当てやコード付きセグメントに関するおぼえ書きデータのセクションごとの要約1つのトピック(コード)について、ケース(文書)のすべてのコード付きセグメントをテーマ別にまとめたもの
サマリーテーブルにまとめる
分析プロセス中でいつ使用するかいつでもコーディング作業中および終了後いつでも
コードベースのアプローチでは、分析の初期段階のみ
コーディング終了後
MAXQDAの操作プロジェクト内のアイテムまたは、文書ブラウザやマルチメディアブラウザ内のセグメントを選択し、右クリック
メニュー[メモ]タブ
コード付きセグメント(例えば文書ブラウザのコーディングストライプ)の上で右クリック
コードをダブルクリック→コード付きセグメントの概要
メニュー[分析]タブメニュー[分析]タブ
文字数とフォーマット文字数の制限はなく、画像や表も含められる255文字まで255文字まで文字数制限なし(テキストのみ)

さらに詳しい情報

MAXQDAオンラインマニュアル(英語)ではさらに詳細に解説しています:

MAXQDA YouTubeチャンネルでは、MAXQA International Conferenceで発表された、MAXQDA 2020の新しいメモやサマリー機能に関するショートビデオをご覧いただけます:


References

Kuckartz, U. (2014). Qualitative text analysis: A guide to methods, practice & using software. Thousand Oaks, CA: SAGE.

Kuckartz, U., & Rädiker, S. (2019). Analyzing qualitative data with MAXQDA. Text, audio, and video. Schweiz, Cham: Springer Nature Switzerland.

Mayring, P. (2014). Qualitative content analysis: Theoretical foundation, basic procedures and software solution.

Schreier, M. (2012). Qualitative content analysis in practice. Thousand Oaks, CA: SAGE.

About the Author

Dr. Stefan Rädiker has been involved in the computer-assisted analysis of qualitative data for many years and has written numerous publications on the qualitative and quantitative methods of social research. Within the framework of his company Methoden-Expertise.de, he trains, advises, and accompanies individuals and institutions in a wide variety of research and evaluation scenarios. After several years as Chief Technology Officer at VERBI Software, the producers of MAXQDA, he is still actively involved in the methodological development of MAXQDA.

 

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