子どもの声からはじまる保育アセスメント
子どもの声からはじまる保育アセスメント
大人の「ものさし」を疑う
松井剛太, 松本博雄 編著
浅井幸子, 中西さやか, 大野歩, 水津幸恵, 片岡今日子, 古賀琢也, 濱田祥子, 佐藤智恵 著
単行本(ソフトカバー): 228ページ
北大路書房
言語: 日本語
ISBN-10 : 476283257X
ISBN-13 : 978-4762832574
発売日:2024/7/26
書籍内容
近年、国際的に幼児教育への投資効果等に関心が高まる中で、外的に読み取りやすいアセスメント(ものさし)が求められている。しかし、固定化された「ものさし」によって見失うモノがあるのではないか。本書では、子どもの声に耳を傾け、対話し揺らぎながら、大人の「ものさし」を疑い、新たなアセスメントのカタチを探る。
子どもとの対話から生み出されている新たな「アセスメント」のカタチ
子どもへのものさしも保育へのものさしも、ひとつではない。多様なものさしはどのように生み出され、保育の質を高めていくのか。最新の国際動向と国内のユニークな実践から解き明かしていくその先には、共生社会実現への手がかりが確かに見えてくる。
本書帯より
久保山茂樹(国立特別支援教育総合研究所)
大人の「ものさし」を疑う
…大人は子どもの学びや経験をとらえるときに無自覚に自分の「ものさし」をあてて評価します。
本書「前書き」より
…子どもの声は、大人にとって異質に感じることがあります。ただ、「異質」だからこそ、保育者が無自覚に使用している「ものさし」に疑問をもつきっかけをくれます。異質でよくわからないから、対話が生まれます。そして、単一だった評価軸に別の可能性を感じさせてくれるのです。
…一人ひとりの子どもたちの声があったとしても、それを受け取る大人の都合や解釈で束ねられたら多声性は保証されません。・そのためには、異質に感じられる声を聴くための構えや方略が必要になります。自分にとって都合の良い声を受け取るだけでは、「ものさし」に変化はありません。
目次
はしがき
序 章 日本の保育における「評価」の位置づけ
1.「評価」に内包されるイメージ
2.形成的評価に関する2つのパラダイム
3.保育の質とオルタナティブ・アセスメント
4.子どももアセスメントの主体となる
5.「対話」を軸に据えたアセスメントの実践
第Ⅰ部 保育アセスメントをめぐる国際動向
第1章 イギリス――学校監査と理想の保育の狭間で
1.イギリスの保育・教育を読み解くうえで
(1)イギリスの「保育」「アセスメント」はどんなイメージ?
(2)歴史から探るイギリスの保育・教育の背景
2.子どもの「声」からはじまる保育アセスメントを探る
(1)イギリスの保育・教育と子どもの「声」
(2)フィールドワークの概要とイングランドの保育
(3)イングランドの保育実践の特徴
(4)イングランドの保育における子どもの「声」を聴きとる取り組み
(5)子どもの「声」を聴きとる取り組みの背景と課題
3.子どもの「声」からはじまる保育アセスメントを目指して――イギリスから学べること
第2章 イタリア――レッジョ・エミリアからハーバード・プロジェクト・ゼロへのインパクト
1.子どもの「100 の言葉」を聴く
2.ドキュメンテーションと評価
3.プロジェクト・ゼロにおける評価の探究
(1)アーツプロペルにおける評価への取り組み
(2)ポートフォリオ文化
4.ドキュメンテーションと評価
(1)グループへの着目
(2)ドキュメンテーションにおける意味の探究
(3)個人主義を超えて
5.オルタナティブな評価を超えて
第3章 ドイツ――「子どもの視点」から学びを描く
1.子どもの視点(Perspective)にこだわる
2.観察とドキュメンテーションをめぐる議論
(1)学びを重視する保育カリキュラムへの転換
(2)観察とドキュメンテーションをめぐる議論
3.「子どもの視点」から学びを読み解く観察とドキュメンテーション
(1)観察とドキュメンテーションの2つのアプローチ
(2)「リソース志向」の観察とドキュメンテーション――「経験しながらの観察」を中心に
4.保育者にとっての観察とドキュメンテーション
(1)ドキュメンテーションのスタイル
(2)観察とドキュメンテーションをめぐる課題
5.「子どもの視点」を大切にした保育アセスメントの生成に向けて
第4章 スウェーデン――乳幼児期から生涯にわたる学びのありようを希求して
1.スウェーデンにおける保育政策の概要
2.福祉国家における乳幼児期への視座
(1)ペダゴジー
(2)遊び–学び理論
(3)子どもの参加と影響力
3.保育評価をめぐる論点
(1)生涯学習制度における保育評価へのニーズ
(2)教育的ドキュメンテーションの開発
(3)教育的ドキュメンテーション導入に伴う課題
(4)教育的ドキュメンテーションを取り巻く多様な議論
4.実践における保育者のまなざし
(1)保育における新たなステージの幕開け
(2)子どもの「今」から生涯を見据える評価の視点
5.スウェーデンにおける保育評価議論からの示唆
第Ⅱ部 多声的な保育アセスメントを求めて
第5章 権利主体者たる子ども
1.自分の考えを主張する子ども,受けとる保育者
(1)「ああしたい,こうしたい」
(2)受けとる保育者の葛藤
(3)保育を見直す対話
2.園環境の価値は子どもによってつくられる
(1)子どもたちの遊ぶ権利が滲み出てくる
(2)写真投影法とは
(3)高松園舎の写真投影法の取り組み
(4)写真投影法の意義と課題
3.子どもの世界をみんなで味わう
(1)「みてみてストーリー」のはじまり
(2)写真を撮ることと保育をすること
(3)育ちを言葉にすること
(4)子どもを「対象」ではなく「宛先」にするということ
第6章 探究者たる子ども
1.保育者とともに探究する子ども
(1)まじめな遊び
(2)How to 言葉をうたがう
(3)想定外をチャンスと捉える
2.チャボとともに
(1)チャボのたまごとの出合い
(2)「たまご」が生活の一部になる
(3)ひよこが生まれるたまごなのか考える
(4)生命に触れる
(5)子どもの声を聴きながら探究するとは?
3.声が形に繫がっていく「カマキリ研究所」
(1)はじまりの声
(2)「カマキリ研究所」創設期
(3)「カマキリ研究所」展開期
(4)研究所の終結期
(5)子どもの声をおもしろがること
第7章 創造者たる子ども
1.保育者とともに活動を創造する子ども
(1)潜在的支配をされる子どもと保育者
(2)支配から創造へ
(3)子どもと保育者が生きる保育
2.行事における創造性
(1)日常的な多面的参加がもたらす園行事
(2)子どもの世界観の探究と尊重がもたらす園行事
3.乳児保育の取り組み
(1)安心できる環境だから自分の気持ちを表出できる
(2)自分で見つけたことは,おもしろい!
(3)どうするのかは,自分で決める
終 章 日本における保育アセスメントの展望と子どもの声
1.アセスメントは子どもとともに
2.思考フレームを溶解する
3.水平的多様性を促す
4.ジパングモデルは,生み出されるのか?