人類学者は異文化をどう体験したか
書籍内容
文化人類学の魅力は、他者の世界をフィールドワークによって深く知ることにある。他者を鏡として自己を振り返り、日常の当たり前を根本から問い直す文化人類学の反照性は、人々を惹きつけ、文明批判や社会評論としても大きな力をもってきた。本書はこうした文化人類学の原点に戻って、外国人や在野研究者を含む16人の多彩な人類学者たちが、各々のフィールドで身体知として掴んだ他者の姿と世界を伝える。
- 外国人や在野の研究者を含む多彩な著者による、様々なフィールドでの異文化体験が語られている。
- エピソードや写真を通して、フィールドで著者が遭遇した出来事を追体験できる。
- 読者自身の「日常」や「普通」を問い直すきっかけをもたらす。
- 研究者や専門の学生だけでなく、異文化・自文化について考えたい人に広く読んでもらいたい16編のエッセイ。
目次
はしがき
序 論 人類学的異文化理解とは何か?――フィールドと身体の共鳴(桑山敬己)
人類学のゆくえ
大学生・一般読者の人類学に対する関心と期待
異文化研究と身体知
「日本」「日本人」という表現について
本書の構成と特徴
本書を読むにあたって
第Ⅰ部 日本人が見た異文化
第1章 他者像を完成させない――国際協力で揺らぐ自己の先に見えたもの(細見 俊)
投げかけられた最初の問い――ベトナムから
国際協力を学ぶため大学院へ
子ども兵士との出会いを振り返る
募り始めた違和感――私の中にあるアフリカ
ウガンダでの出会い
他者像を更新し続ける――ベトナムの体験を振り返って
【読書案内】
第2章 「当たり前」を問い直す――ネパールの農村生活を通じた「読み書き」についての一考(安念真衣子)
「読み書き」をめぐる旅への誘い
「字を書ける」ことは「当たり前」か?
ネパールの農村で識字教室の場に加わる
「教育を受けていない」ことによる女性の劣等感
文具を使うことを身につける
「名前を書く」という身近な文字の使用場面
他者との関係で立ち上がる学習意欲
日本の「読み書き」について自省する
自他に対する規範の枠を広げる
【読書案内】
第3章 フィールドに「身を置く」ことと「わかる」こと――フィールドワークのこぼれ話(川瀬由高)
あいまいな飼い犬
フィールドワークと民族誌
お祭りが始まる前にうろうろした話
現地の生活のリズムについての気づき
フィールドワークで「わかる」こと
【読書案内】
第4章 フィールドで「信頼する」ことと「信頼される」こと――人類学的ラポールの舞台裏(野口泰弥)
フィールドワークとラポール
インドに行く
フィロスとの出会い――調査協力の申し出と困惑
トドゥプラでの調査――調査者/協力者関係の変移
フィロスとの喧嘩――協力者からブラザーへ
ラポールの舞台裏
【読書案内】
第5章 フィールドとの「つながり」、フィールドとの「断絶」――ロシアと日本の往還から見えたもの(櫻間 瑛)
非人類学者のフィールドワーク
多文化社会としてのロシアとそこでの生活
「不真面目なムスリム?」
フィールドとの断絶
つながる断絶の感覚
つながりと断絶の向こうへ
【読書案内】
第6章 知らない土地とのつながりを見つける旅――アリゾナで先住民族ヤキの人びとと過ごして(水谷裕佳)
初めてのアリゾナ訪問
先住民族ヤキの移住と環境
ヤキの集団的な経験と私の個人的な経験のつながり
自分を位置づける作業としてのフィールドワーク
ヤキの家族との出会い
アコとサイラの東京訪問
研究と人生の不可分な関係
【読書案内】
第7章 「わたし」と「あなた」が出会う時――ドイツでの経験を日本での教職に生かす(石田健志)
生寮の仲間たちとの出会い
フィールドでの出会い
フィールドで見えてきたこと
人類学あがりの教師として
【読書案内】
第8章 アジア人がアメリカの大学で教える時――30年前の新任教員に立ちはだかった壁とその教訓(桑山敬己)
東京からロサンゼルスへ
ロサンゼルスからリッチモンドへ
初めての授業で起きたこと
ある黒人教授の苦悩
マイノリティーとして学んだこと
【読書案内】
第Ⅱ部 外国人が見た日本
第9章 五感から異文化を考える――日本に暮らす一人のラトビア人の日常から(インガ・ボレイコ)
教科書の中の「異文化」と現地で接した「異文化」
見る――景観を「見る」ことと「感じる」こと
聞く――新たな世界観を生み出す言葉
味わう・嗅ぐ――料理を通して現地に触れる
触る――身体的記憶となる「異文化」
身体で感じとる「異文化」
【読書案内】
第10章 「日本」を追い求めて――文化を共有することとは(孫 嘉寧)
「二次元」からのファースト・コンタクト
どのような日本文化を、誰と共有しているか
身体感覚と日常生活の日本
「複顔」の日本、重層化した文化
文化の共有をめぐって
【読書案内】
第11章 「無」としてのマイノリティー――不可視の内なる他者(ロスリン・アン)
違和感から生まれた疑問
沖縄と北海道で他者を見る
異文化の「馴化」と自文化の「異化」
アメリカでシンガポールを振り返る
「無」を捉える
見えなくされた人びと
日常の「当然」に隠された「不都合」
【読書案内】
第12章 国内の異文化体験――「彼ら」としての先住民と私(呉 松旆)
ワールドカップと異文化
初めて意識した国内の異文化
自己表象と他者表象のはざまに身を置く
知の世界システムにおける「当たり前」の問い直し
外国人研究者の桎梏
終わりのない異文化理解
【読書案内】
第13章 アイデンティティの複雑さ――カタルーニャ人とスペイン人であること(ビエル・イゼルン・ウバク)
自己紹介するのは困難である
カタルーニャの起源
スペインの民主化と私
スペインの中央集権化と国内の独立運動
カタルーニャ人というアイデンティティ
国家とネーション
【読書案内】
第Ⅲ部 もう一つの日本
第14章 「無知」から「愛着」へ――北海道朝鮮初中高級学校「ウリハッキョ」でエスノグラフィーした僕(川内悠平)
ある出会い
うまれた「問い」
いざ、現場へ
「現場」と「研究」の狭間で
「他者」を考えながら、「自分」を「逆さ読み」する
「現場」に入っていったからこそ、感じたこと
「研究」から10年、いまも「現場」で
【読書案内】
第15章 身体の非対称性――ひとりのダンス教師は異なる身体とどう向き合ってきたのか?(井上淳生)
異文化を日常にする
ダンス教師の存在意義について考える
日常の世界を見つめ直す
身体の非対称性に気づく
自己の思想形成史に自覚的になる
【読書案内】
第16章 人類学は役に立つか?――手話通訳者になりそこねた学生のその後(沢尻 歩)
手話との関わりと、その後の逃避
論文の執筆方針に悩む――人類学徒と通訳者の狭間で
私が見た聴覚障害者の姿
修士論文の結末と通訳者の仕事
人類学は役に立つか?
成果によらずとも役には立つ
【読書案内】
文化人類学をより良く知るための文献
あとがき